金属加工における「エッチング加工」を徹底解説|メリット・デメリットやほかの加工方法との違いも
2024.10.08
様々な製品の小型化や高性能化および軽薄化に伴い、金属部品や基板の高精度な微細加工が求められています。金属の微細加工ではバリや歪みが大きな問題であり、お悩みの方も多いのではないでしょうか?今回は、バリや歪みが生じにくく、コストを抑えて高精度加工を可能とするエッチング加工についてわかりやすく解説します。他の加工方法との比較もおこないますので、金属の加工方法の検討にぜひお役立て下さい。
金属加工の種類
金属に穴を開けたり、所定の形状に加工したりする方法としては、切削加工やプレス加工、レーザー加工、エッチング加工などが挙げられます。
切削加工やプレス加工、レーザー加工は、いずれも物理的に金属を除去して金属を加工する方法です。
一方のエッチング加工は、穴部分や所定の形状以外の部分をプラズマを用いて除去加工をする、あるいは溶液を用いた金属の溶解現象を利用して除去加工を行います。
まずは、このエッチング加工について解説します。
金属加工における「エッチング加工」とは?
さきほど解説したように、金属のエッチング加工では、プラズマや溶液で除去加工するため、細かい加工が施せることが特徴です。それにより、精密加工が必要な分野で使用されています。例えば、自動車の部品などの比較的大きな部品はもちろん、半導体や電子回路など微細な部品で比較的精密な加工が必要な分野で多く使用されています。
エッチング加工の種類は2つ
エッチング加工には「ウェットエッチング」と「ドライエッチング」の2種類があります。ウェットエッチングは、ドライエッチングよりも低コストでエッチング加工ができ、大量生産にも向いています。実際に加工業者を調査したところ、ウェットエッチングをおこなう業者が多く、金属加工をおこなう際にはウェットエッチングを用いるのが一般的だといえるでしょう。各方法を順番に解説します。
ウェットエッチング
ウェットエッチングは、金属が薬品に溶解する現象を利用したエッチング方法です。例えば金属板に丸い穴を開けたい場合は、穴を開ける部分以外を溶けないように保護します。そして、保護されていない露出している金属部分だけを溶解して穴を開けます。
詳しい工程は、以下の通りです。
- パターンフィルム(露光用原版)を作成する
パターンフィルムは、エッチング加工する金属板に保護膜を作成する際に被せるフィルムです。フィルムには、作成するパターンと同一の形状が作製されています。例えば、金属板に丸い穴を開けたい場合は、所定の位置に丸い穴パターンがあるフィルムを作成します。 - 金属板の準備・前処理をする
金属板表面をきれいにして後工程のフォトレジストの密着度を高めます。
具体的には脱脂や酸洗および水洗などをおこない、金属板表面に付着している油分やほこりを取り除きます。 - 金属板の上にフォトレジストを成膜する
例えば、フィルム状のフォトレジストをラミネートしてフォトレジスト層を成膜します。 - パターンフィルム(露光用原版)をフォトレジストに被せる
- フォトレジストを露光させてパターンフィルムの形状を転写する
フォトレジストに光を当てると、パターン形状通りに露光されます。 - フォトレジストを現像する
現像すると、フォトレジストで覆われていない部分の金属面が露出します。 - 薬品で溶解する
金属板の露出している部分を薬品で溶解し、除去します。 - フォトレジストを除去する
金属板を保護していたフォトレジストを除去し、所定のパターンが形成された金属板を取り出します。 - パターンが転写された金属板を洗浄および乾燥する
金属板の洗浄・乾燥をおこなうとともに、品質検査を実施します。
ドライエッチング
ドライエッチングは、エッチングガスをプラズマ化して生成されるイオンや高速中性粒子・ラジカルなどを金属に接触させて不要部分を除去する方法です。ウェットエッチングと異なる点は、エッチング処理の部分だけです。
まず、所定のパターンが形成されたパターンフィルムをフォトレジストの上に被せて、露光・現像をおこないます。すると、残したい箇所すなわち保護すべき箇所にだけフォトレジストが残り、パターンが転写された状態となります。
次はエッチング工程です。エッチングガスから生成されるイオンや高速中性粒子・ラジカルを接触させると、フォトレジストが無い部分だけ除去されます。これで、所定のパターンが形成された金属板が完成します。
ドライエッチングは高精度の加工が可能な方法ですが、装置が大掛かりになることが課題です。ドライエッチングは、金属加工にも使用されますが、主な用途は半導体の加工やMEMSの加工です。
エッチング加工できる主な金属
先ほど申し上げたように、金属のエッチング加工としてはウェットエッチングが一般的です。ウェットエッチング可能な金属としては以下のような金属があります。
- 鉄
鉄は、他の金属に比べ安価である上に、強度が高く、加工し易いのが特徴です。導電性や熱伝導性が良いこともあり、様々な製品に利用されています。 - ステンレス(SUS)
ステンレスは、鉄(Fe)を主成分とした材料で、一定量以上のクロムを含ませた合金鋼です。高い耐腐食性を持ち、錆びにくく、様々な用途で使用されています。 - 銅(Cu)・銅合金
銅は非鉄金属材料のひとつで、導電性や熱伝導性に優れています。ただし、腐食に弱い面もあるため、取り扱いには注意が必要です。
- コバール
コバールは、鉄にニッケル、コバルトなどを配合した合金です。熱膨張特性が均一であり、常温付近での熱膨張率が低く耐熱性が高いという特徴を持ちます。そのため、一般的な使用温度帯域での寸法安定性がよい材料です。
- アルミ(Al)・アルミ合金
アルミは、非鉄金属の中でも軽量であることが特徴です。熱伝導率や電気伝導性や耐食性が高いという特徴も持ちます。ただし、比較的柔らかく、粘りがあるため、歪みやバリが発生しやすい材料です。 - ニッケル(Ni)・ニッケル合金
ニッケルは、レアメタルに分類される金属で錆びにくいという特徴を持ちます。ま た、加工が容易である、耐熱性が高いのも特徴です。 - チタン(Ti)
チタンは、軽量であり、高強度・耐食性に優れている金属です。ただし、エッチング加工が難しいといわれています。
これら金属の他に、銀やモリブデン、42アロイなどもウェットエッチング加工が可能です。なお、ガラスをはじめとした非金属材料にもエッチング加工が可能な材質があります。
エッチング加工した金属を使う機会が多い業界・分野
次に、エッチング(ウェットエッチング)加工した金属を使う機会が多い業界および分野を解説します。
- 自動車部品
- 半導体・電子回路
- 医療機器
- 光学機器
- ホビー・アート・サイン製品
これらの業界や分野で金属のエッチング(ウェットエッチング)加工が利用されています。
順番に解説します。
自動車部品
人命を預かることから高い精度を求められる自動車の部品の製造にウェットエッチングは好適です。具体的な部品としては、オイルフィルターやランプ、モーターコア、スピーカーなどが挙げられます。近年では、自動車用燃料電池のセパレータもウェットエッチングを使用して製造されています。
半導体・電子回路
様々な製品の小型化に伴い、製品内に用いられる半導体の固定パーツや回路も微細・極小となっており、高い加工精度を達成可能なウェットエッチングが使用されています。ウェットエッチングを使用すれば、半導体回路のリードフレームの複雑な流路や極薄のシムやスペーサーなどの製造が可能です。また、先ほど申し上げたようにウェットエッチングでは様々な金属を加工できるため、製品に合わせた材料を選択できます。
医療機器
高い精度を求められる医療機器の部品にもウェットエッチングは使用されています。例えば補聴器のフィルター部分などが挙げられます。補聴器の特性上、音を通し水を通さないミクロン単位の極小の穴の形成が必要である上、人体に触れるためバリや歪みを抑えた滑らかな加工がなされなければなりません。ウェットエッチングはこれらの条件をクリアできる加工方法です。
光学機器
スマートフォンやカメラのディスプレイの精細化に伴い、有機ELディスプレイを製造する際に使用されるパターンマスクも高精度かつ微細なものが求められています。このパターンマスクの製造には、ウェットエッチングが使用されています。また、製造の自動化に大きな役割を果たすエンコーダ(位置検出センサー)などの製造にもウェットエッチングは好適です。
ホビー・アート・サイン製品
ウェットエッチングは工業製品だけにとどまらず、金属模型をはじめとするホビー・アート・サイン製品などの身近な製品にも使用されています。例えば、表札や店舗のサインなどで文字が浮き出たものを見かけることが多いと思います。これらもウェットエッチングで作製可能です。
エッチングを使った金属加工のメリット・デメリット
最初に申し上げたように、金属加工の方法には様々な方法があります。いずれの方法にもメリットとデメリットがあり、ウェットエッチングも例外ではありません。ここでは、エッチング(ウェットエッチング)のメリットとデメリットを解説しますので、ご検討の参考にしていただければ幸いです。
メリット
エッチング(ウェットエッチング)のメリットは以下の通りです。
- 高精度の加工が可能である
- 様々な金属を加工できる
- 生産効率を上げられる
- コストを抑えられる
これまで申し上げたように、ウェットエッチングでは高精度の加工が可能です。また、対象となる金属の種類も多く汎用性があります。
ウェットエッチングでは、パターンフィルムの精度が製品の加工精度に直結するため、製品の品質向上および品質の確保がしやすいといえます。このことから不良品発生率を下げることが可能です。また、パターンフィルムを用意すれば大量に加工することも可能であり、生産効率を向上できます。
ウェットエッチングで金属を溶解するのに使用する化学薬液は、それほど高価ではありません。また、ウェットエッチングの装置は比較的安価であり、これらのことからコストを抑えることが可能です。
すなわち、コストを抑えて高精度な加工をおこないたい場合には、ウェットエッチングがおすすめです。
デメリット
エッチング(ウェットエッチング)のデメリットは以下の通りです。
- ドライエッチングよりも加工精度が劣る
- エッチング液の廃液処理が必要
ウェットエッチングはドライエッチングよりも加工精度が劣ってしまいます。ウェットエッチングは薬液により金属を溶解する方法です。薬液で溶解する際、パターンに応じたフォトレジストに覆われていない部分の深さ方向以外に幅方向への溶解も進みます。そのため、フォトレジストで覆われている部分の下をえぐるように溶解することがあります。これに対し、ドライエッチングは深さ方向のみで除去が進むため、ウェットエッチングよりも精度が高いといえるでしょう。
エッチング液は所定の廃液処理が必要です。ただし、ウェットエッチングをおこなう業者に依頼すれば、処理もおこなっているので心配ありません。
すなわち、ウェットエッチングはコスト重視で大量生産を考えている場合にもおすすめの方法です。
【徹底比較】エッチング加工とほかの金属加工の違い
最初に申し上げたように、金属加工の方法としては、エッチング加工の他に、切削加工やプレス加工、レーザー加工もよく用いられています。切削加工は、ドリルやフライス盤、旋盤などの切削工具を用いて金属に穴を開ける、あるいは所定の形状に加工する方法です。プレス加工では、所定の形状を抜くための一対の金型で金属を挟み込んで力を加え、金属を所定の形状に加工します。レーザー加工は、レーザー光線を金属に照射して高温で金属を切削や切断加工する方法です。
そこで、これらの方法を「コスト」「納期」「量産性」「イニシャルコスト」「バリ・歪みの発生頻度」「微細・多穴加工」「極薄材」の観点で比較してみましょう。
エッチング加工 (ウェットエッチング) |
切削加工 | プレス加工 | レーザー加工 | |
コスト(少量生産) | ◎ | 〇 | △ | ◯ |
コスト(大量生産) | ◯ | △ | ◎ | △ |
納期(少量生産) | ◯ | ◯ | △ | ◎ |
納期(大量生産) | ◯ | △ | ◎ | △ |
量産性 | △ | △ | ◯ | △ |
イニシャルコスト | ◯(安価) | ◯(安価) | △(金型が必要) | ◎(不要) |
バリ・歪みの発生頻度 | ◯ | △ | △ | △ |
微細・多穴加工 | ◎ | ◯ | △ | ◯ |
極薄材 | ◎ | ☓ | △ | △ |
表を見てわかるように、それぞれの方法においてメリット・デメリットがあります。製品を製造する上で、各項目とも重要な項目ですが、こうして比較してみるとエッチング(ウェットエッチング)は各項目のバランスが取れた方法だということがわかります。さらに、エッチング(ウェットエッチング)は、特に極薄材の加工に好適です。イニシャルコストを含む製造コストを抑えつつ、ある程度の精度を保った微細加工をおこないたい場合、極薄材の加工をおこなう場合には、エッチングが一番適しているといえるでしょう。
エッチング加工を業者へ依頼する際の価格
エッチング加工を業者に依頼する場合の価格はどのくらいなのでしょう。実際には、加工する金属の種類、パターンの形状や複雑さ、納期などを総合的に見て価格を決定します。すなわち、業者にとって価格の目安を提示するのは困難です。
そこで、エッチング加工を行う業者の多くは、無料相談を受けています。相談の上、見積りを出す業者がほとんどですので、まずは無料相談に申し込むことをおすすめします。
金属へのエッチング加工なら豊富な技術・経験を持つ株式会社ケミカルプリントへ
「金属加工で歪みやバリで困っている」「コストをある程度抑えたい」「イニシャルコストをかけたくない」など金属加工でお悩みの方、ウェットエッチングでの加工を検討なさってみてはいかがでしょう?
株式会社ケミカルプリントは、約60年にわたりエッチング加工をはじめとした金属加工に向き合っています。60年の間に様々な用途や品質基準をクリアしてお客様のご要望に応えてきました。経験に裏打ちされた技術・経験や実績は、きっとお客様のお役に立つことでしょう。
株式会社ケミカルプリントは、微細・極小・極薄製品の加工を得意としています。特に5ミクロン厚の極薄製品や、0.1mm未満の穴あけ加工など加工限界を狙ったエッチングを高精度で提供しているのが特徴です。
経験豊富であることから、加工方法についても知識や技術を多く持ち、オーダーされた方法以外の方法を提案する提案力も持っています。実際の加工も熟練したスタッフが高い技術力で効率的におこない、お客様にご満足頂けると思います。
ウェットエッチングによる金属加工をお考えなら、株式会社ケミカルプリントに相談なさってみてはいかがでしょう?
まとめ
ここまで、金属のエッチング加工について詳しく解説してきました。エッチング加工は、高精度加工を可能としつつ、切削加工やプレス加工、レーザー加工といった他の金属加工には付き物のバリや歪みが生じにくく、コストも抑えることが可能です。
金属の高精度加工をコストを抑えつつ達成したいとお考えの方、特に極薄材の加工をお考えの方、一度ウェットエッチングでの加工をご検討頂いてはいかがでしょう?
その際には、60年にわたってエッチング加工をおこなってきた信頼のおける株式会社ケミカルプリントに相談してみてください。きっと、あなたのご期待に応えられると思います。